レチノール(ビタミンA)は、シミ・しわ・たるみなどへの効果が期待され、美容皮膚科の分野で長く研究・活用されてきた成分です。しかし、「使ったら肌が赤くなった」「皮むけして続けられなかった」という声も少なくありません。
今回は、美容皮膚科医でANS.監修医の竹村昌敏先生によるANS.ゼミ「レチノイドを肌に塗るということ」の内容をもとに、レチノールの基礎知識やよくある質問、正しい使い方まで徹底解説します!
レチノール徹底解説
初めに知っておきたい「レチノイド」について
レチノールを正しく理解するためには、まずレチノイドについて知る必要があります。
「レチノイド」とは、ビタミンA(=レチノール)およびその誘導体の総称です。美容皮膚科で処方されるトレチノインからスキンケア化粧品に配合されるレチノールまで、すべてこのレチノイドグループに含まれます。
また、ビタミンA誘導体には、生理活性が強く医療機関で扱われるレチノイン酸(トレチノイン、イソトレチノインなど)と、肌に穏やかに作用するよう加工され化粧品などに配合されるたタイプ(パルミチン酸レチノール、酢酸レチノールなど)があります。
いずれも“レチノイド”の一種であり、作用の強さや使用目的によって使い分けられています。
最近話題のバクチオールは、実は形が全く違うため厳密にはレチノイドではありませんが、肌への作用が似ているため「機能類似体」として化粧品に配合されています。
レチノイドの肌への作用
レチノイドが肌に与える主な効果は3つです。
- ターンオーバーの促進 ー 肌の生まれ変わりを活発にする
- コラーゲン・ヒアルロン酸の生産促進 ー ハリと潤いを増やす
- 皮脂分泌の抑制 ー ニキビ予防にも効果的
結果として、ハリやツヤが増し、毛穴や小じわ、くすみなどの改善が期待できます。これが“レチノールで肌が若返る”といわれる理由です。
なぜ効果に個人差があるのか?
レチノールやビタミンA誘導体を使っても、すぐに効果を感じられる方とゆるやかに効果を感じる方がいます。その違いは、レチノイドが肌に作用するまでのプロセスにあります。
レチノイドが肌で働くまでの複雑なプロセス
❶ 肌への吸収 ― 油に溶けやすいレチノイドは角層を通って浸透
レチノイドは脂溶性(油に溶けやすい)成分。角層の細胞間脂質を通って内部に入ります。そのため、角層のバリア機能が乱れていたり、乾燥しているとこの通り道が不安定になり、吸収されにくくなります。逆に、肌が整っていると、レチノイドは表皮の奥へとスムーズに届きます。
❷ 細胞内での輸送 ― 「運び屋」タンパク質によって核へ届けられる
肌の奥に浸透したレチノイドは、CRBP(細胞内レチノール結合タンパク質)という“運び屋”によって、細胞核の近くまで運ばれます。人によって量や働きが異なるため、同じ量を塗っても効果に差が出てしまうのです。
❸ 代謝と受容体への結合 ― レチノイドが“活性型”に変わって働く
レチノイドは、細胞の核内酵素によって少しずつ形を変え、最終的に「レチノイン酸」という活性型に変換されます。このレチノイン酸が肌細胞の受容体と結びつくことで、コラーゲン生成やターンオーバーなど、肌の再生が行われます。受容体の数や働きには個人差があるため、人によって効き方が異なります。
個人差を生む4つの要因
こうして見ると、レチノイドが肌に届くまでには意外と長い道のり。だからこそ、人によって「効き方」や「感じ方」に違いが出るのです。
1.遺伝的な違い
受容体の数や、レチノイドを変換する酵素の働きは生まれつき異なります。
2.ビタミンAの貯蔵量
体内にビタミンAが少ない人ほど反応が強く出やすく、多い人は穏やかに感じる傾向があります。
3.肌の状態
レチノイドは脂に溶ける成分。乾燥してバリアが弱っている肌より、油分と水分のバランスが整った肌の方が吸収がスムーズです。
4.生活習慣・使用ペース
紫外線や睡眠、食生活も代謝に影響します。無理せず継続して使うことが大切です。
「レチノイド反応」は“悪いこと”ではない
レチノールを使い始めると、多くの人が体験するのが「赤み」「皮むけ」「ヒリヒリ」「乾燥」などの一時的な反応。これを「レチノイド反応(A反応)」と呼びます。
一見「副作用」と思いがちですが、実は肌が生まれ変わる途中の正常なプロセス。
肌のターンオーバーが急激に進むことで、一時的にバリア機能が乱れるために起こります。しばらく使い続けると、肌の受容体が増えることで慣れていき、ターンオーバーも安定し、赤みやヒリヒリは自然と落ち着いていきます。
「反応が出ない=効いていない」ではない!
一方で、「レチノールを塗っても何も起きない」という人もいますが、レチノイド反応の有無と効果は必ずしも比例しません。
反応が出ない人でも、肌内部ではしっかりとコラーゲン生成や細胞修復が進んでいることがあります。レチノイド反応がでにくい方は、以下のような理由が考えられます。
レチノイド反応がでない理由
- 元々受容体が多く、レチノイドを効率的に処理できる
- 肌のバリア機能が強固で、急激な変化が起きにくい
- 体内にビタミンAが十分にあり、劇的な変化が起きない
重要なのは、反応の有無ではなく肌状態の変化を観察すること。3ヶ月以上継続使用して、以下のような変化があれば効果は出ています。
☑︎肌のキメが整ってきた
☑︎毛穴が目立たなくなった
☑︎肌にハリが出てきた
☑︎くすみが改善された など
もし変化が感じられない場合は、濃度を上げる、使用頻度を増やす、別のレチノイドに変更するなどの対策を検討しましょう。
レチノールで美しい肌を作る実践ガイド
成功のための5つの重要ポイント
❶ 低濃度から始める
初めてレチノールを使う場合、必ず低濃度(0.01〜0.05%)から始めましょう。
日本の化粧品では濃度が明記されていない製品も多いため、「敏感肌向け」「初心者用」と記載のあるものを選ぶのが安心です。
いきなり高濃度のものを使うと、どんな肌質でもレチノイド反応(赤み・皮むけ)を起こす可能性が高まります。反応が強く出てしまうことで、継続できなくる人も多いので気をつけましょう。
❷ “週2〜3回から始める”スロースタート
最初は、夜のみ・週2〜3回の使用からスタート。1週間様子を見て問題なければ、隔日使用に増やし、最終的に毎日使用を目指します。この「スロースタート」が、レチノール美容成功の鍵です。
❸ 抗炎症成分との併用が効果的
レチノイド反応を和らげるためには、抗炎症や保湿成分の併用が有効です。とくに次のような成分を一緒に使うと、刺激を感じにくくなります。
・ナイアシンアミド(ビタミンB3)
・セラミド
・ツボクサエキス(CICA)
・アラントイン
海外では、トレチノイン・ハイドロキノン・ステロイドを組み合わせた「クリグマントリオ療法」が一般的ですが、日本ではステロイドを避け、より穏やかな成分で炎症を抑える方法が主流です。
❹ 保湿の徹底
レチノールは皮脂分泌を抑える作用があるため、乾燥しやすくなります。使用後は保湿クリームを重ねて、肌の水分と油分のバランスを整えましょう。特に以下の成分を含む保湿剤がおすすめです。
・ヒアルロン酸
・セラミド
・スクワラン
・シアバター
❺ 紫外線対策は絶対条件
これが最も重要なポイントです。レチノールで期待する効果を台無しにする最大の要因が紫外線です。せっかくターンオーバーを促進しても、紫外線でダメージを受けては意味がありません。日中は必ずSPF30以上の日焼け止めを使用し、2〜3時間ごとに塗り直しましょう。
継続使用の重要性と期間の目安
レチノールは最低3ヶ月の継続使用が必要です。
効果が現れる時期の目安:
- 1ヶ月目:肌のごわつきが改善、キメが整い始める
- 2ヶ月目:毛穴の改善、肌の明るさが増す
- 3ヶ月目:小じわの改善、ハリの実感
- 6ヶ月以降:深いシワやたるみへの効果
重要な注意点として、レチノールは基本的に「一生使い続けても良い」成分ですが、トレチノインなど医薬品レベルのレチノイドは休薬期間が必要な場合があります。使用する製品の特性を理解して適切に使い分けることが大切です。
妊娠中の使用について
化粧品に含まれるレチノールは、皮膚からの吸収量が極めて少なく、理論的には妊娠中でも問題ないとされています。しかし、万が一のリスクを避けるため、多くのメーカーや医療機関では妊娠中・授乳中の使用を控えるよう推奨しています。
内服薬のイソトレチノインは胎児への影響があるため、絶対に使用してはいけません。
美肌は一生の投資
メモをとりながら最後まで真剣にお話を聞いてくださった参加者の皆さま竹村先生は勉強会の最後に、参加者の皆さんへこんな言葉を贈りました。
「美容は一生お付き合いをしていくもの。美しい肌を維持するには、継続的な努力が必要です。レチノールは、その努力に確実に応えてくれる成分だと思います。」
美しい肌を保つために欠かせない基本は、次の4つです。
- 紫外線対策(最重要)
- 適切なレチノイドの使用
- 十分な保湿
- 継続すること
これらを意識しながら、自分の肌のペースに合わせて少しずつケアを続けることが、美肌へのいちばんの近道です。
個人差はありますが、正しい方法で使えば、レチノールは誰の肌にも確実に良い変化をもたらします。焦らず、肌と向き合いながら、“美肌一生”を目指していきましょう。